I-1 2019年度の日本の一次エネルギーの約8割は化石燃料に依存しており、エネルギ
一自給率は12%程度である。化石燃料への依存を低くすることでカーボンニュートラル
の実現にも貢献することができ、更にはエネルギー安全保障の観点においても、エネルギ
一自給率を高めることは最重要課題の1つと考えられる。そしてエネルギーの自給率を今
後高めていくためには、輸入化石燃料への依存率を現在よりも低くし、下図の資源エネル
ギー庁から提案されているようなエネルギーミックスを検討することも1つの案と考えら
れる。
そこで、地球環境を考えつつ日本の経済活動を今後持続していくためには、エネルギー
の入手・確保・輸送・備蓄・転換・利用について検討していくことが必要と考えられる。
このような日本を取り巻くエネルギー環境を踏まえたうえで、以下の問いに答えよ。
(1)今後日本におけるエネルギー自給率を上げるため、技術者の立場から考えた場合にど
のような課題が考えられるか、多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明確に
したうえで、それぞれの課題内容を示せ。
(2)前問(1) で抽出した課題のうち重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する解
決策を機械技術者として3つ示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行した結果、得られる成果とその波及効果を
分析し、更に新たに生じる懸念事項への機械技術者としての対応策について述べよ。
(4)前問(1) 〜(3) の業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の
観点から必要となる要件・留意点について題意に即して述べよ。
解答例
1.エネルギー自給率向上に向けた課題
①再生可能エネルギー普及の観点
エネルギー自給率の向上には、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの導入拡大が重要である。これらはクリーンであると同時に国内資源を活用できる点で、自給率向上に資する。一方で、現状では再生可能エネルギーによる発電コストが化石燃料発電と比較して高い傾向にある。このため、導入拡大の前提として、発電コストの低減が課題となる。
②燃料の国内生成の観点
一次エネルギーのうち、国内での供給拡大が相対的に現実的な燃料として、水素および植物・廃棄物由来のバイオ燃料が挙げられる。自給率向上の観点からはこれらの国内生産量を増加させることが重要である。しかし、現状ではバイオエタノール等の多くが海外生産に依存している。したがって、国内での原料確保、供給網整備を含む生産基盤の構築が求められる。
③エネルギー消費の観点
供給面の強化に加え、需要面ではエネルギー消費量の削減が重要である。特に産業部門、とりわけ製造業は消費規模が大きく改善余地も大きい。製造業では主な消費源が工場設備にあるため、設備更新や工程改善等による省エネルギーの推進は、国内の総消費エネルギーを減らし、エネルギー自給率の向上に寄与する。
2.最重要課題とその解決策
(1) 最重要課題
前項③の「エネルギー消費量の削減」を最重要課題として位置づける。理由は、製造業の工場におけるエネルギー消費には削減余地が大きく、対策の実行可能性および波及効果が高いと考えられるためである。加えて、工場設備や工程の改善には機械設計者が主導し得る要素が多く、専門性を活かした具体的な施策立案につながる点も重視した。
(2) 解決策
②IoT技術による工場内エネルギー消費の可視化
工場内の設備の消費エネルギーを計測・監視し、デタとして収集・可視化することにより、過剰消費箇所を特定して改善につなげる。加えて、時系列データから需要ピークの時間帯を把握できるため、生産ラインごとの稼働時間やシフトを調整し、需要の平準化を図ることが可能となる。これにより、エネルギー供給の損失を抑えつつ、より効率的な運用が期待できる。
③輸送効率化による燃料消費の削減
輸送の効率化は、車両燃料の削減に直結する。具体的には、製品設計段階において輸送車両内のデッドスペースを最小化する形状・梱包形態を検討し、積載率を向上させることで輸送回数を低減できる。さらに、輸送回数の削減を前提とした在庫管理(部品供給計画、ロット設計、拠点配置の最適化等)を行うことで物流に伴うエネルギー消費の抑制が可能となる。
3.成果と波及効果、新たに生じる懸念
(1) 成果と波及効果
上記施策により国内の総エネルギー消費が減少し、発電・輸送に投入される一次エネルギーの使用が抑制される。一次エネルギーの一部は化石燃料に依存しているため、消費削減はエネルギー自給率の向上に寄与する。さらに、輸送効率の改善により輸送費と経費が低減し、収益性の向上が期待される。
(2) 新たに生じる懸念事項
一方で、IoTシステム導入にはセンサー設置、ネットワーク整備、データ基盤構築等が必要であり、初期投資が大きくなる可能性がある。その結果、投資回収の観点から施策が承認されないリスクが生じ得る。
(3) 懸念への対策
第一に、対象設備やラインを限定した段階導入を行い効果測定と改善フィードバックを繰り返しながら、適用範囲を漸進的に拡張する。第二に、エネルギー監視に加えて設備状態監視を組み込み、故障兆候検知による予知保全を可能とする。これにより、保全コストの低減や突発停止の回避といった付加価値が得られ、投資回収の確度を高めることができる。
4.業務遂行上の留意点
業務遂行にあたっては、地球環境保全の観点を踏まえ環境負荷低減と生産性向上の両立を意識して取り組む必要がある。