I-1 機械を小型化することで、省スペース化,省エネルギー化,省資源化等が図れるだ
けでなく、従来の機械が働けない場所での作業を行うこと等、新たな用途の拡大が期待で
きる。機械の小型化に伴い代表寸法を小さくすると、働く力や作用等の大きさ・比が変わ
り、挙動が変化する。幾何学的に相似な物体において、この代表寸法と挙動の関係を近似
的に示したものをスケール効果と呼ぶ。表1に代表的なスケール効果の例を示す。
| パラメータ | 関係式 | 寸法効果 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 長さ | L | L | |
| 表面積 | S ∝ L² | L² | |
| 体積 | V ∝ L³ | L³ | |
| 質量 | m = ρV | L³ | ρ:密度 |
| 圧力による力 | F = SP | L² | P:圧力 |
| 重力 | F = mg | L³ | g:重力加速度 |
| 慣性力 | F = m·(δ/t²) | L⁴ | δ:変位、t:時間 |
| 粘性力 | F ∝ μL²/d | L² | μ:粘性係数、d:間隔 |
| 弾性力 | F = ESA/L | L² | E:ヤング率 |
出典:日本ロボット学会誌 Vol.19, pp.286–289, 2001 より抜粋
本問は、機械を小型化する際に、スケール効果に基づく機械工学の知見を踏まえて、そ
の性能や効率,設計、製造等がどのように変化するかを問うものである。機械製品を1つ
想定し、以下の問いに答えよ。
(1)想定した機械製品とその概要を説明せよ。その機械製品に関して、構造を変えず相似
的に100分の1程度に小型化することの実現性を検討する。その際の主要な課題を、技
術者としての立場で多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで課
題の内容を示せ。
(2)前問(1) で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、これを最も重要
とした理由を述べよ。その課題に対する複数の解決策を、機械部門の専門技術・手法を
用いて示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても残存しうる若しくは新たに生じうる
リスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)〜 (3)の業務遂行において必要な要件を、技術者としての倫理、社会の
持続可能性の観点から題意に即して述べよ。
解答例
1.小型化を想定した製品および課題
(1) 想定した製品
モーター駆動により生産ライン上のワークを搬送するローラーコンベアを対象とし、これを原寸の百分の一スケールに小型化した場合の技術的課題について検討する。
(2) 課題の抽出
①放熱性の観点
製品の小型化により表面積が減少し、モーターから発生する熱の放散が困難となる。また、内部部品間の隙間縮小により熱がこもりやすくなる。その結果、効率低下や故障のリスクが高まるため、小型化後においても放熱性を確保することが課題である。
②加工精度の観点
1/100スケールへの小型化では、部品の加工公差も同程度に縮小する必要がある。例えば、100mm±0.1mm は1mm±0.001mmに相当し、一般的な工作機械では加工が困難である。このような高精度部品を製造する技術の確立が課題となる。
③剛性の観点
小型化により重量は寸法の三乗、断面二次モーメントは四乗で変化するため、重量の増加に対して、相対的なたわみが増大する。これにより搬送不良や振動が生じるおそれがあるため、機械の剛性向上が必要である。
.最重要課題と選定理由及び解決策
(1) 最重要課題と選定理由
剛性向上に関する課題を最重要課題と位置付ける。剛性はコンベアの構造設計そのものに関わる根本的な問題であり、機械設計者の専門領域である。一方、モーターの放熱や加工精度に関する課題は、加工部門やモーターメーカーの知見を活用することで対応可能であるため、構造設計に関する剛性の検討を最優先とした。
(2) 解決策
①高ヤング率材料の使用
ヤング率の高い材料を用いることで剛性向上が期待できる。例えば、タングステンは一般鋼材 (SS400)と比較して約2倍のヤング率を有する。また、金属以外ではセラミクスやFRPも鉄より高いヤング率を有しており、代替材料として有効である。
②断面形状の最適化
スケール効果による自重たわみは、断面形状の工夫によって低減可能である。角材をI 形や H形断面とすることで、断面二次モーメントが増加し、たわみ性能を向上させることができる。
③削り出し部品の採用
溶接構造では、溶接欠陥が発生しやすく、たわみ増加の要因となる。これに対し、削り出し部品を採用することで溶接欠陥のリスクを低減でき、剛性向上およびたわみ抑制に有効である。
3.新たに生じるリスクと対策
(1) 新たに生じるリスク
剛性向上のための材料変更や構造変更により、製造コストが増加し、採算性が低下するリスクがある。例えば、タングステンの使用は加工難易度を高め、加工工数の増加を招く。また、I 形やH 形断面の採用は加工工程の増加につながり、製造コスト上昇の要因となる。その結果、1/100スケール製品の需要に対して利益を確保できない可能性がある。
(2) 対策
C A Eによる構造解析および形状最適化を活用し、試作回数を抑えた効率的な設計手法を採用することで設計コストを低減する。さらに、機能単位で部品を共通化し、同一部品の量産効果により加工単価の低減を図る。
4.業務遂行において必要な要件
既存製品を大きく変更する小型化設計に積極的に取り組むとともに、最新技術の継続的な習得により技術者としての資質向上を図る。また、リサイクルや再利用を考慮した循環型製品の開発を通じて、環境保全への貢献を目指す。